2005年10月11日

ひと粒の種 5

食事をするコタンの目の前にはきたない服やゴミが
うず高く積まれていました。
「ふーっ」コタンはため息をつきました。
食事をする喜びなんていうものも、とうにありません。
口の中に入ったものをぼちぼち噛み砕きながら
ぼんやり部屋の中を見渡しました。

すると、その時そのきたない山の下のほうに
美しく黄色に輝くものがあることに気がつきました。
コタンは食事を脇に置くとその黄色いものをまじまじと見ました。
さらに近付いてみると
それは、小さく輝くつぼみをつけた植物だということが
わかりました。
「これは、あの時の?」
数日前に見たあの緑色の芽をなんとなく思い出しました。
「いつのまにこんなに大きくなったのかな?」
コタンはしゃがみこんでその美しいつぼみを見ました。
「きれいだな」
そのつぼみはコタンの部屋の中にあるものの中で
唯一美しいものでした。
「美しい」と感じるなんてほんとうにひさしぶりのことでした。
そんなわけですこしのあいだそのつぼみに見とれていると
ダダダダダダッ…
突然いつぞやのねずみがどこからか現れ
部屋の中をくるったように走り回って壁にあいいた穴から外へ
逃げていきました。
「わあっ!」
びっくりしたコタンは前につんのめりそうになり
あわてて手をつきました。
ぐしゃ…、その時偶然にもさきほどまで見とれていた
あの美しいつぼみをもった植物をおしつぶしてしまったのです。tubomi.jpg
posted by シャンティー at 15:11| ひと粒の種 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月01日

ひと粒の種4

シトシトシトと
その日は朝から雨が降っていました。
コタンは相変わらずなんにもしない
だらしない時間を過ごしていました。
「生きてたってなんにもいいことないな」
ぐちゃぐちゃのベッドの上で、そうつぶやきました。
だらしない生活を続けてきたコタンでしたが
決してこの生活に満足しているわけではないのでした。
実はコタンはコタンなりにそんな生活が
いやでいやでしかたがなかったのです。
でも、どうしたらいいか考えてみてもいつも答えは出ず
ただただ時間が過ぎて行くだけの毎日を
過ごすしかなかったのです。

雨の中、食事を持ってきたおばさんが言いました。
「とりあえず、この荒れ放題の部屋を片づけなさい。
わたしは忙しくてお前の部屋まで手がまわらないんだよ」
いつもと同じことをあきらめたように言うと
部屋を出ていきました。
「部屋を片付けてなにになるんだ?どうせまたすぐに散らかるのに」
コタンは内心そう思うのでした。
そして、ベッドに腰掛け、おばさんお持ってきてくれた食事を口に運びながら
汚い部屋を眺めました。

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posted by シャンティー at 16:37| ひと粒の種 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月11日

ひと粒の種3

さて、それから何日かたったある日
コタンはそろそろ自分の着ているものの汚れた臭いに
たえきれなくなってごそごそとベッドからはい出しました。
「う〜ん、このへんだったかな、おばさんが洗ってくれた洗濯物は」
そう言って部屋のすみにうず高く積まれた
食べたもののカスやらゴミの山をごそごそとかきわけました。
そして、下の方になっていたきれいに洗濯されたシャツを
ぐいっとひっぱりだしたのでした。
上から順番にものをのけていけばいいものを
それをせずにひっぱりだしたものですからまたたくまに
ゴミの山がくずれてしまって、コタンはゴミの下敷きになってしまいました。
「うわー、まったく!」
面倒くさそうにぼやいてそこから抜け出そうとした時
ふと、目にとまったものがありました。
それは、まだ小さな緑の芽でした。
そうです、この前おばさんの足下を走ったネズミがいましたね。
実はこの緑の芽を宿した種はそのネズミがどこからか運んできて
あのとき落として行ったものでした。
そして今、そのひと粒の種が
床に貼ったレンガの隙間にしっかり根をおろしてみずみずしく
きらきらと輝くまでになったのです。。
「ん?」
コタンは、この時この小さな緑に気付きはしましたが
ゴミの山から出たとたんそんなことはどうでもよくなり
久しぶりにきれいなシャツに着替えると
ふたたびベッドへもどっていつもどおりの生活に戻りました。
着古したシャツはゴミの山のさらに頂上へポイッと
投げ捨てられ部屋はあいかわらず足の踏み場もありません。
だけど、ちいさな緑の芽は幸運にもそのほんの隙間に
しっかり命をつなげているのでした。tane3.gif
posted by シャンティー at 23:41| ひと粒の種 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月07日

ひと粒の種2

「コタン、いい加減にどこかへ働きにいきなさい。
うちだっていつまでもお前の面倒をみられるほど
余裕があるわけじゃないんだから。
それに、たまには部屋もかたずけて…」
コタンのどっさりたまった洗濯物を仕上げてもってきた
おばさんのいつものお説教がはじまりました。
コタンは「うん」と気のない返事をするばかりです。
その時でした。「きゃ〜!!」
おばさんが叫びました。
おばさんの足下を1匹のねずみが走ったのでした。
「んもー!まったく!部屋を汚くしてるから
ねずみが寄ってくるんだよ。う〜、ぞっとする!」
と、からだ全体で嫌悪感を示すと
やりきれない顔をして、足早に帰っていきました。
コタンはどうでもいいやといった様子で
汚いベッドの上でまた相変わらずの眠りにつきました。
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posted by シャンティー at 23:51| ひと粒の種 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月05日

ひと粒の種

にぎやかな町の片隅にコタンという男が住んでいました。
コタンは23歳。ふつうならどこかへ働きに行って
かっこいい服を着てすてきな女性とお付き合いして…
といった年頃だというのに
コタンときたらとてつもないなまけものなのでした。
だらしなくって面倒くさがりやで
年がら年中家でごろごろしています。
だから、家の中はごみの山。
服だってこの前着替えたのはいつのことだったのか
覚えてもいません。
食べたものももちろん放ったらかし、
部屋の中はおかしな臭いでぷんぷんしています。
そんないい加減なコタンの世話を焼いているのは
となりに住むおばさんでした。
コタンの両親は父親が10年前、母親が8年前に病気で
亡くなってしまったのです。
それ以来、このおばさんがコタンの面倒を
みているのでした。
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posted by シャンティー at 23:11| ひと粒の種 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする